顧問先の総務担当の方から、「社員が通勤中に交通事故に遭ったのですが、先生に相談させてもよいでしょうか」という電話をいただくことがあります。会社の顧問弁護士は、あくまで会社と契約している弁護士。だからこそ、社員個人の悩みまで持ち込んでよいのか、迷われるのは自然なことです。
私は企業法務と顧問業務を扱いながら、交通事故の損害賠償も長く担当してきました。そのため、顧問先の社員の方から、仕事とは関係のない相談を受ける機会も少なくありません。実際に受けてみると、社員の相談には、会社を通すべきもの、個人として受けられるもの、そして立場上どうしても受けられないものが、分かれています。
この記事では、顧問弁護士が社員の相談にどこまで応じられるのか、その線引きと費用、会社として用意しておきたい仕組みを、私の実務経験をもとに説明します。読み終えるころには、社員から相談を持ちかけられたとき、会社としてどう動けばよいかが見えてくるはずです。
主要なポイント
- 顧問弁護士が社員から受けられる相談と受けられない相談の線引き
- 会社の顧問弁護士に個人的な相談をするときの流れと守秘義務
- 社員の相談を福利厚生として生かす仕組みと費用の考え方
- パワハラなど会社と社員の利害がぶつかる場面での対応方法
1. 顧問弁護士は社員の相談にどこまで応じられるのか

最初の章では、顧問弁護士という立場そのものを確認したうえで、社員の相談を「会社の業務に関わるもの」と「社員個人の悩み」に分け、それぞれをどう扱うかを見ていきます。あわせて、弁護士の立場上どうしても受けられない相談、つまり利益相反の考え方と、相談の多いパワハラの扱いについても説明します。
1-1. 顧問弁護士とは何か、一般の弁護士との違い

顧問弁護士とは、会社や事業者と継続的な顧問契約を結び、日常的な法律相談や契約書の確認、トラブルの初期対応を平時から引き受ける弁護士のことです。事件が起きてから探す弁護士とは異なり、毎月の顧問料を支払うことで、いつでも相談できる窓口を確保しておく仕組みと言えます。
では、一般の弁護士と何が違うのでしょうか。資格や権限に差はありません。違いは契約の形にあります。単発で依頼する場合、その案件が終われば関係も終わる。一方、顧問契約では、会社の事業内容や取引先との関係、過去の労務トラブルまで弁護士が把握した状態が続きます。相談のたびに一から事情を説明する必要がないため、初動がスムーズです。ここが最も大きな差です。
法律上、顧問契約は民法の準委任契約にあたります。弁護士は依頼者である会社のために、善良な管理者の注意をもって業務にあたる義務を負います。ここで押さえておきたいのは、顧問契約の依頼者はあくまで「会社」であって、社員一人ひとりではないという点です。社員の相談を考えるとき、この前提がすべての出発点になります。
補足:顧問弁護士の3つの役割
顧問弁護士の仕事は、トラブルを未然に防ぐ予防法務、起きた紛争に対処する臨床法務、新規事業などを支える戦略法務の3つに分けられます。社員の相談は、予防法務と臨床法務の両方にまたがる領域です。
私の事務所でも、顧問先からの相談は契約書の確認や取引先とのやり取りが中心ですが、そこに「社員のことで」という相談が一定の割合で混ざります。顧問弁護士とは、会社の法律問題の窓口であると同時に、社員をめぐる問題の相談先でもあるのです。

1-2. 社員の相談は業務上と個人的な悩みに分かれる

社員の相談と一口に言っても、中身は大きく2つに分かれます。1つ目は、業務の中で生じる法律の疑問。2つ目は、社員の私生活で起きたトラブルです。この2つは、顧問弁護士の関わり方も、費用の扱いも、まったく異なります。
業務上の相談とは、例えば次のようなものです。取引先から届いた契約書の条項に不安がある、顧客から理不尽な要求を受けている、部下の勤怠管理で就業規則の読み方が分からない、SNSで会社の悪口を書かれた。これらは社員個人の問題に見えても、本質的には会社の問題。したがって、顧問契約の範囲内で対応するのが原則になります。
これに対して、個人的な相談は会社の業務と切り離されたものです。休日の交通事故、親の相続、離婚や養育費、借金の返済、賃貸住宅の敷金トラブル、近隣との騒音問題、消費者被害。こうした悩みは会社が当事者ではないため、顧問契約の本来の対象からは外れます。
ところが、実務ではこの2つの境目があいまいになりがちです。例えば「営業先に向かう途中で事故に遭った」という相談は、社員個人の損害賠償の問題であると同時に、労災や会社の使用者責任にも関わります。私が相談を受けるときは、まず「この話の当事者は誰か」「会社に法的な影響があるか」という2点で仕分けをしています。
相談を仕分けるときの目安
会社が当事者になる、または会社の責任や損失につながる話は「業務上の相談」。社員本人と第三者だけで完結し、会社に法的な影響がない話は「個人的な相談」。迷ったら、会社の担当者から顧問弁護士に概要だけ伝えていただければ、どちらの扱いになるかをお答えします。
あなたの会社では、社員から法律の相談を受けたとき、誰がこの仕分けをしているでしょうか。総務や人事の担当者が判断に迷って抱え込み、対応が遅れるケースは少なくありません。基準を決めておくだけでも、社内の負担はかなり軽くなるでしょう。
1-3. 業務上の相談は会社を通じて顧問弁護士へ

業務上の相談を顧問弁護士に持ち込むとき、大切なのは「会社の窓口を通す」ことです。社員が思い思いに弁護士へ連絡すると、会社として把握していない案件が増え、対応方針がばらばらになってしまいます。また、弁護士の側も、誰の意向で動いているのか分からなくなります。
そのため、多くの顧問契約では、相談の連絡窓口を担当者や担当部署に限定しています。私の事務所でも、契約時に窓口となる方を決めていただき、社員からの相談はその方を経由して受ける形が基本です。現場の社員が直接電話をかけてくる形にはしていません。
とはいえ、現場の生の情報が必要になる場面はあります。顧客対応の担当者から直接話を聞いたほうが早いこともあるでしょう。その場合は、会社の担当者が同席する形で打ち合わせを設けるか、担当者の了解を得たうえで現場の方と直接やり取りします。会社が把握している状態を保ちながら、必要な情報は現場から直接取る。これが業務上の相談を進めるときの型です。
社員同士の争いは会社の問題として扱う
業務上の相談の中でも判断に迷うのが、社員同士のトラブルでしょう。上司と部下の対立、同僚間の金銭の貸し借り、社内恋愛のもつれ。当事者はどちらも社員ですが、職場環境に影響する以上、会社の問題として扱います。ただし、このとき顧問弁護士はどちらかの社員の味方になるのではなく、会社がどう対応すべきかを助言する立場に立ちます。この点が、次の1-4以降で説明する個人的な相談とははっきり違うところです。
1-4. 会社の顧問弁護士に個人的な相談はできるか

社員が、会社の顧問弁護士に個人的な相談をすることはできるのでしょうか。顧問契約の内容次第で可能です。ただし、無条件ではありません。
顧問契約の依頼者は会社ですから、社員個人の相談は本来の契約範囲に含まれていません。そこで、多くの法律事務所は「役員や従業員の個人的な法律相談」を福利厚生の一環として契約に組み込むかどうかを、プランごとに定めています。当事務所では、月額33,000円(税込)のライトプランでは対象外とし、スタンダードプラン(月額55,000円)で月1回・1時間まで、サポートプラン(月額110,000円)で月3回・3時間まで、社員の個人的な法律相談を無料でお受けする形です。いずれも労使紛争は除きます。
相談の流れは、業務上の相談と同じく会社の担当者を通すのが基本です。担当者から「社員の方から個人的な相談がある」と連絡をいただき、日程を調整して、社員の方と直接お話しします。相談の中身は会社の担当者には伝えません。弁護士には弁護士法第23条に基づく守秘義務があり、たとえ顧問先の会社であっても、相談者本人の同意なく内容を明かすことはできないからです。
私自身、交通事故の損害賠償を多く扱ってきたこともあり、顧問先の社員の方から「事故に遭ったが、保険会社の提示額が妥当か分からない」といった相談を受けることがよくあります。相続や離婚の相談も少なくありません。「会社にこういう制度があるとは知らなかった」と言われることも多く、制度があっても知られていなければ使われないと実感しています。

1-5. 利益相反で顧問弁護士が受けられない相談

社員の個人的な相談に応じられるとはいえ、どんな相談でも受けられるわけではありません。会社と社員の利害がぶつかる相談は、顧問弁護士の立場では受けられないのです。これを利益相反と言います。
典型的なのは、社員が会社に対して何かを求める場面です。未払い残業代を請求したい、解雇が不当だと争いたい、懲戒処分に納得がいかない、退職金の額に異議がある。こうした相談を受ければ、顧問弁護士は会社の代理人でありながら、会社を相手取る側の助言をすることになります。弁護士法第25条は、相手方から相談を受けて助言した事件について職務を行うことを禁じており、弁護士職務基本規程でも、依頼者同士の利益が相反する事件の受任は認められていません(出典:e-Gov法令検索「弁護士法」)。
したがって、社員から会社との争いに関する相談が持ち込まれた場合、私は最初の段階で「その相談は顧問弁護士の立場ではお受けできません」とお伝えし、他の弁護士に相談するよう案内します。中途半端に話を聞くと、後に会社側の代理人としても動けなくなるおそれがあるため、入口で線を引くことが会社のためにもなるのです。
注意:顧問弁護士が受けられない社員の相談
未払い賃金や残業代の請求、解雇や雇止めの効力を争う相談、懲戒処分への異議、労災の認定をめぐって会社と対立する相談、退職条件の交渉。これらはいずれも会社と社員の利害が正面からぶつかるため、会社側の顧問弁護士は社員の相談を受けられません。はじめから別の弁護士を案内するのが、双方にとって適切です。
もう1つ、見落とされがちな利益相反があります。社員同士の争いです。例えば、社員Aが社員Bから金銭を借りて返さない、というケースで、顧問弁護士がAの代理人になると、Bも同じ会社の社員である以上、会社との関係が複雑になります。このような場合、どちらの代理人にもならず、会社としてどう対処するかの助言にとどめています。
利益相反の判断は、相談の入口で相手方の名前を確認することから始まります。私の事務所で個人的な相談を受ける前に相手方が誰かを必ず確認しているのは、会社と社員の関係を守るためです。
1-6. 会社の顧問弁護士にパワハラを相談できるか

社員の相談の中で、とりわけ扱いが難しいのがパワハラです。「会社の顧問弁護士にパワハラを相談できるか」という疑問には、相談する人が誰かによって答えが変わります。
まず、会社が相談する場合。社員からパワハラの申告があった、管理職の言動に不安がある、という相談は、顧問弁護士の中心的な仕事です。2020年6月施行の労働施策総合推進法の改正により、事業主にはパワハラ防止のための措置を講じる義務が課され、中小企業にも2022年4月から適用されています。相談窓口を設け、事実関係を速やかに確認し、被害者と行為者に適正に対処し、再発防止策を講じる。これが義務の中身です(出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。顧問弁護士は、この一連の流れを設計し、調査の進め方や処分の妥当性について助言します。
次に、被害を受けた社員が相談する場合。ここは慎重に考える必要があります。社員が「上司からパワハラを受けている、会社に損害賠償を求めたい」と考えているなら、会社と利害が対立するため、顧問弁護士は相談を受けられません。一方、「これはパワハラにあたるのか知りたい」という段階であれば、会社の相談窓口として話を聞き、会社の調査につなげることは可能です。ただし、その場合も顧問弁護士は会社の立場で聞いていることを、社員に明示しなければなりません。
◆弁護士のワンポイントアドバイス
パワハラの相談窓口を顧問弁護士にする会社は少なくありませんが、私は「社内窓口の後ろに顧問弁護士が控える」形をおすすめしています。社員がいきなり会社側の弁護士と向き合うのは心理的な負担が大きく、相談自体を控えてしまうことがあるからです。社内の担当者が一次的に話を聞き、調査の進め方や処分の判断を顧問弁護士が支える。この形なら、社員の相談しやすさと会社の対応の適切さを両立できます。
申告を受けた直後に会社が何を確認すべきかは、ハラスメント相談を受けた企業の初動対応について書いた記事で詳しく説明しています。調査に入るまでの数日間の動きが、その後の展開を左右します。
補足:内部通報窓口を顧問弁護士に委託する場合
公益通報者保護法の改正で、従業員数301人以上の事業者には内部通報に対応する体制の整備が義務付けられています。通報窓口を顧問弁護士に委託するなら、顧問弁護士であることを社員に明示し、利用が抑えられないよう配慮することが、消費者庁の指針の解説でも求められています。
2. 顧問弁護士による社員の相談対応を福利厚生に生かす

ここからは、社員の相談に顧問弁護士を使える仕組みを、会社としてどう設計し、どう運用するかを見ていきます。福利厚生として組み込む意味、費用と月額顧問料の関係、社員から「弁護士に相談する」と言われたときの受け止め方、運用上の注意点、そして契約前に確認しておきたい範囲の話まで、順に説明します。
2-1. 社員の相談を福利厚生にする会社側のメリット

社員の個人的な相談を顧問弁護士が受けられるようにしておくことは、社員のためだけの制度ではありません。会社にとっても、目に見える効果があります。
1つ目は、社員が私生活のトラブルに気を取られる時間を減らせることです。交通事故の示談交渉や相続の手続きは、経験のない方が自力で進めると膨大な時間と精神的な負担がかかります。仕事中もそのことが頭から離れず、集中力が落ちる。早い段階で弁護士に相談できれば、見通しが立って落ち着きを取り戻せます。
2つ目は、突然の退職を防げること。借金や家庭の問題を抱えた社員が、誰にも相談できないまま追い詰められ、ある日突然辞めてしまう。私が見てきた中でも、こうした退職は少なくありません。相談先があるだけで、選択肢が変わります。
3つ目は、採用や定着の場面で会社の姿勢を示せることです。「顧問弁護士に個人的な相談ができる」という福利厚生は、まだ導入している会社が多くありません。求人票や社内案内で示せば、社員を大切にする会社だという印象につながるでしょう。
4つ目は、会社が把握しておくべき問題に早く気づけることです。社員の個人的な相談の中には、会社に関わる問題が隠れていることがあります。通勤中の事故は労災の対象になり得ますし、社員の借金問題が業務上の金銭管理に影響することもあるでしょう。本人の了解を得たうえで、会社として動くべきことを助言できるのは、顧問弁護士だからこそです。
社員の相談を福利厚生にする4つの効果
私生活のトラブルによる業務への影響を抑える、突然の退職を防ぐ、採用や定着の場面で会社の姿勢を示す、会社に関わる問題に早く気づく。この4つが、会社側から見た主な効果です。

2-2. 社員の相談にかかる費用と月額顧問料の関係

社員の相談を顧問弁護士に受けてもらう場合、費用はどうなるのでしょうか。これは契約の組み方によって大きく変わるため、一般的な傾向と、当事務所の実際の料金を分けてお話しします。
まず一般的な傾向として、中小企業の月額顧問料は3万円から5万円程度が目安とされています。日本弁護士連合会の調査でも、月3時間程度の相談を含む顧問契約で「月額5万円」と答えた弁護士が半数を超え、「月額3万円」がそれに続きました。社員の個人的な相談については、顧問料の範囲内で受ける事務所、顧問先の社員向けに相談料を割り引く事務所、通常の相談料を社員本人から受ける事務所と、対応が分かれます。あくまで目安ですが、「社員の相談が顧問料に含まれるかどうか」は事務所ごとに違うと考えておいてください。
当事務所の顧問契約では、社員の個人的な法律相談の扱いをプランごとに明記しています。
| プラン | 月額顧問料(税込) | 社員の個人的な法律相談 | 個別事件の割引 |
|---|---|---|---|
| ライト | 33,000円 | 対象外 | 10%減額 |
| スタンダード | 55,000円 | 無料(月1回・1時間まで) | 20%減額 |
| サポート | 110,000円 | 無料(月3回・3時間まで) | 30%減額 |
いずれのプランも労使紛争は対象外です。また、相談の結果、示談交渉や訴訟を社員個人から受任する場合は、その社員の方との間で別途委任契約を結び、費用も個別にご案内します。私の経験では、相談は会社の制度として無料で提供し、その先の依頼は社員本人が判断して費用を負担する形が最も多く、また分かりやすい運用です。
費用の全体像は、月額顧問料だけを見ても比べられません。当事務所の顧問弁護士・企業法務の料金ページには、各プランの対応範囲と、個別の交渉・訴訟の費用の考え方をまとめています。契約前に、社員の相談枠がどの程度使えるかを含めて確認してみてください。
社員が個人で顧問弁護士を持つ場合の月額目安
会社の制度とは別に、社員が個人として顧問弁護士を持つ選択肢もあります。個人向けの顧問契約は、月額5,000円から3万円程度で、簡単な相談や書類の確認を受けられるプランが多く見られます。これも一般的な目安に過ぎませんが、会社の顧問弁護士では利益相反で受けられない相談、例えば会社との労働条件の交渉なども相談したい場合は、個人で別の弁護士と契約するほうが適しているでしょう。
2-3. 顧問弁護士に相談すると言われたときの対応

「顧問弁護士に相談する」という言葉は、言われた側にとって重い意味を持ちます。会社としては、社員に対してこの言葉を使うときと、社員から「弁護士に相談します」と言われたときの両方について、対応を考えておく必要があります。
会社が社員に顧問弁護士へ相談すると伝えるとき
社員との話し合いの中で、会社側が「この件は顧問弁護士に相談してから回答します」と伝えることがあります。これ自体は正当な対応。感情的に即答するより、法的な検討を経て回答するほうが、社員にとっても納得のいく結果になりやすいからです。
ただし、言い方には注意が必要です。「弁護士に相談するぞ」という言い方は、社員には脅しに聞こえます。特に、社員が正当な権利を主張している場面でこの言葉を使うと、それ自体が不利益な取扱いや、新たなハラスメントと受け取られかねません。私が顧問先に助言しているのは、「会社として正確に回答するために、法的な確認をしたうえで改めて説明する」と伝えること。同じ内容でも、社員の受け止め方はまるで違います。
社員から弁護士に相談すると言われたとき
逆に、社員から「弁護士に相談します」「労働基準監督署に行きます」と言われた場合はどうでしょうか。ここで会社がしてはいけないのは、それを止めようとすることです。社員には弁護士に相談する自由があり、妨げる言動は避けなければなりません。
会社がすべきことは、その時点で顧問弁護士に連絡し、状況を共有すること。社員が弁護士に相談するということは、会社と社員の利害が対立する局面に入ったということです。ここから先、顧問弁護士は会社の代理人として動くことになり、社員からの相談は受けられなくなります。対立が見えた時点で顧問弁護士に伝えると良いでしょう。
注意:対立が始まった後に避けたいこと
社員が弁護士を立てた後に、会社の担当者が本人と直接やり取りを続けて、不用意な発言や書面を残してしまうケースがあります。相手に弁護士が付いたら、会社側も顧問弁護士を通した方が安心です。また、相談に行った社員に配置転換や評価の引き下げなどを行うと、不利益な取扱いとして別の問題を生みます。
2-4. 社員の相談窓口として運用するときの注意点

社員の相談に顧問弁護士を使える仕組みを作っても、運用を誤ると使われないか、逆にトラブルの元になります。私が顧問先に提案している運用の要点は、次の4つです。
守秘義務の説明を社員向けの案内に入れる
社員が相談をためらう最大の理由は「会社に伝わるのではないか」という不安です。社内で制度を案内するときには、相談内容は弁護士の守秘義務により会社に伝わらないことを明記してください。会社が「内容を教えてほしい」と弁護士に求めても、弁護士は応じられない。この点を会社自身が理解しておくことも大切でしょう。
受けられない相談を最初から示しておく
利益相反で受けられない相談があることは、制度を案内する段階で伝えておくべきです。会社との労働条件の争いは対象外であること、その場合は別の弁護士を案内されることを、案内文に含めておきましょう。相談に来た社員が断られて不信感を抱くより、最初から分かっているほうがはるかに健全だからです。
相談枠の管理と予約の流れを決める
月1回や月3回といった相談枠がある場合、誰がどの月に使ったかを会社の担当者が管理する必要があります。とはいえ、担当者は相談内容を知りません。そこで、「相談があった」という事実だけを記録する運用にします。予約は担当者経由とし、社員が直接弁護士に連絡する形にはしないほうが、枠の管理も守秘義務の維持も楽でしょう。
会社に関わる問題が見つかったときの扱い
社員の個人的な相談の中で、会社に関わる問題が見つかることがあります。通勤災害の可能性、家庭の事情による長期の休業、業務に影響する債務の問題。こうした場合、弁護士は本人の了解を得たうえで、会社として動くべきことを助言します。了解が得られなければ、会社には伝えません。この線引きを制度の設計段階で決めておけば、社員も安心して相談できるはずです。
◆弁護士のワンポイントアドバイス
制度を作っても使われない、という声をよく聞きます。利用が多い会社に共通するのは、入社時の説明や社内報で繰り返し案内していること、そして経営者自身が「困ったら弁護士に相談してよい」と口にしていることです。制度の中身より、社内の空気のほうが利用率に影響します。年に一度でよいので、案内の機会を作ってみてください。

2-5. 顧問弁護士との契約前に確認したい相談の範囲

これから顧問契約を検討する会社にとって、社員の相談をどう扱うかは、契約前に確認しておきたい項目の1つです。月額顧問料の安さだけで選ぶと、「社員の相談は対象外だった」「相談時間の枠がすぐ埋まった」ということになりかねません。
確認したい点は次のとおり。社員の個人的な相談が顧問料に含まれるか、含まれる場合の回数や時間の上限はどうか、労使紛争が除外されているか、相談から依頼に進んだ場合の費用はどうなるか、そして相談の予約は誰を通すのか。これらを契約書または料金表で明文化してもらうことが、後の行き違いを防ぎます。
あわせて、会社側の相談枠とのバランスも考えておきましょう。社員の相談が増えて会社自身の相談時間が圧迫されては本末転倒です。当事務所のスタンダードプランとサポートプランでは、会社の相談とは別に社員の相談枠を設けているため、社員の利用が会社の相談を妨げることはありません。
顧問契約を始める時期の見極めについては、中小企業が顧問弁護士への相談を始めるタイミングと準備をまとめた記事を参考にしてください。また、月額料金の比べ方や契約前に確認したい項目は、顧問弁護士の費用の比べ方と契約前の確認事項を解説した記事で詳しく扱っています。
当事務所へのご相談について
顧問契約の内容や料金のご説明、契約前の企業訪問には相談料はかかりません。社員の相談枠をどう使うか、自社に合うプランはどれかといったご質問だけでも構いませんので、お問い合わせフォームまたはお電話(八王子本部 042-631-5160、札幌支部 011-676-3061、士別支部 0165-29-7200)でご連絡ください。
2-6. 顧問弁護士と社員の相談に関するよくある質問(FAQ)
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Q1. 社員が会社の顧問弁護士に直接電話して相談してもよいですか?
A. 契約の内容によりますが、多くの顧問契約では相談の窓口を会社の担当者に限定しています。当事務所でも、社員の方の相談は会社の担当者を通じて予約していただく形です。直接の連絡を受け付けると、会社が把握していない相談が増え、相談枠の管理も難しくなるためです。ただし、予約が済んだ後の相談そのものは、社員の方と弁護士が直接お話しします。
Q2. 社員の個人的な相談の内容を、会社は顧問弁護士から教えてもらえますか?
A. 教えてもらえません。弁護士は弁護士法第23条により、職務上知り得た秘密を守る義務を負っており、顧問先の会社であっても例外ではありません。相談した社員本人が同意した場合に限り、必要な範囲で会社に伝えることがあります。会社の側は、相談があったという事実の記録にとどめ、内容を聞き出そうとしない運用にしてください。
Q3. 社員の家族の相談も顧問弁護士に頼めますか?
A. 契約の定め方次第です。役員や社員の家族まで対象に含めている事務所もあれば、社員本人に限る事務所もあります。当事務所では、まず会社の担当者を通じて概要をお知らせいただき、対象になるかどうかと費用をご案内しています。家族の相談でも、会社や社員本人と利害が対立する内容は受けられない点は同じです。
Q4. 退職した元社員から顧問弁護士に相談したいと言われたら、どうすればよいですか?
A. 退職者は、顧問契約の福利厚生の対象から外れるのが通常です。加えて、退職後の相談は未払い賃金や退職の経緯など会社との対立を含むことが多く、利益相反の観点からも顧問弁護士は受けられないと考えてください。会社としては別の弁護士や公的な相談窓口を案内するにとどめ、そうした相談があったこと自体は顧問弁護士に共有しておくと、後の対応が速くなります。
Q5. 社員の相談を受けた顧問弁護士が、その社員の代理人として動くことはありますか?
A. あります。交通事故の示談交渉や相続の手続きなど、会社と利害が対立しない案件であれば、社員個人から委任を受けて代理人として動けます。その場合は、社員の方と弁護士との間で別途委任契約を結び、費用も個別に取り決めます。会社の顧問料で賄われるのは相談までで、その先の依頼は社員本人の判断と負担で進めるのが一般的です。
2-7. まとめ|顧問弁護士と社員の相談を上手に生かすには

顧問弁護士が社員の相談にどこまで応じられるかは、「誰の相談か」と「会社と利害がぶつかるか」の2点で決まります。業務上の相談は会社の問題として顧問契約の範囲で対応し、個人的な相談は契約の定めに応じて福利厚生として受ける。そして、会社と社員が対立する相談は、顧問弁護士の立場では受けられない。この3つの区分を社内で共有しておくだけで、社員からの相談への対応は見違えるほど速くなるはずです。
この記事の要点をまとめます。
- 顧問契約の依頼者は会社であり、社員の相談は契約の定めがあって初めて対象になる
- 業務上の相談は会社の窓口を通し、個人的な相談は守秘義務のもとで弁護士が本人から直接聞く
- 未払い賃金や解雇など会社との対立を含む相談は、利益相反のため顧問弁護士は受けられない
- パワハラは会社の相談として顧問弁護士が支え、被害社員の窓口は社内に置く形が良い
- 社員の相談枠が顧問料に含まれるか、回数や時間の上限はどうかを契約前に確認する
- 制度は案内を繰り返してこそ使われる。守秘義務と受けられない相談を最初に示す
社員が安心して働ける環境は、会社の法務体制の一部です。あなたの会社の顧問契約に社員の相談枠があるか、あるなら社員に知られているか。一度確かめてみてください。当事務所では、八王子・札幌・士別の3拠点で、顧問契約の内容と社員の相談枠のご説明を無料で行っています。顧問弁護士への社員の相談を会社の仕組みとして生かすことができれば、より良い会社になるものと考えます。

